共有名義の不動産売却 困難な理由と解決策

共有名義の不動産売却 困難な理由と解決策
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こんにちは!終活だよドットコムの運営者、終活・相続・不動産の専門家のカズです。

「共有名義の不動産売却」を進めたいけれど、共有者間で意見がまとまらなかったり、相続が繰り返されて権利関係が複雑になっていたりして、どう進めら良いか分からずお困りではありませんか?中には、共有者が認知症や行方不明になっていて、話し合いすらできないケースもあるかもしれません。

この記事では、そんな八方ふさがりのように見える「共有名義の不動産売却」について、なぜ売却が難しいのかという法的な理由から、状況別の具体的な解決策まで、専門家の視点で分かりやすく解説していきます。

共有持分のみの売却は可能なのか、売却にかかる費用や税金はどれくらいか、最終手段である共有物分割請求とは何か、といった疑問にもしっかりお答えしますね。

共有名義の不動産問題は、放置しても絶対に解決しません。この記事を読んで、あなたにとって最適な第一歩を見つけてください。

共有名義の不動産売却でお悩みなら、まずは専門家に相談してみませんか? 特にご自身の持分だけの売却や、他の共有者と話がまとまらない複雑な案件は、専門の買取業者への相談が解決への近道です。

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この記事のポイント
  • 共有名義不動産の売却が困難な法的な理由
  • 状況別の3つの売却シナリオ(全員合意・持分売却・訴訟)
  • 認知症や行方不明の共有者がいる場合の法的手続き
  • 売却にかかる費用や税金、節税のポイント
コンサルタント @KAZU

共有名義の問題は、時間と共に「相続」が発生し、権利者がネズミ算式に増えていく点に最大の怖さがあります。問題が小さいうちに、つまり「今」行動することが、将来の大きなトラブルを防ぐ何よりの特効薬になりますよ。

なお、共有名義の不動産は、不動産業界では「訳あり物件」の一種として扱われることもあります。事故物件や再建築不可物件など、他のケースも含めた全体像を知りたい方は、訳あり物件とは?基礎ガイド|価格に潜む落とし穴と専門家の回避法もあわせてご覧いただくと、リスクの全体像がつかみやすくなります。

目次

共有名義の不動産売却が困難な理由

共有名義の不動産売却が困難な理由

共有名義の不動産売却に関するご相談は、私のもとにも非常に多く寄せられます。多くの方が「なぜこんなに手続きが面倒なんだ」と頭を抱えていらっしゃいますが、それには民法で定められた明確な理由があるんです。まずは、その「根本原因」から解き明かしていきましょう。

共有持分のみの売却は可能か?

まず、よくあるご質問として「自分の持分だけなら、他の人の同意がなくても売れるの?」というものがあります。

これに対する答えは、「法律上は可能」です。

不動産を複数人で所有している状態を「共有名義」といい、各自が持つ所有権の割合を「共有持分」と呼びます。この「共有持分」は、それ自体が個人の独立した財産権です。ですから、ご自身の持分だけを売ったり、放棄したりすることに、他の共有者の同意は必要ありません。

ご自身の持分がどれくらいかは、法務局で「全部事項証明書(登記簿謄本)」を取得すれば、甲区という欄に所有者全員の名前と持分割合が明記されています。

しかし、皆さんが本当に知りたいのは「不動産そのもの(全体)」を売却できるか、ですよね。ここで大きな壁が立ちはだかります。

不動産「全体」を売却する行為は、法律上「変更(処分)行為」という最も重大な行為にあたります。これには売却のほか、建物を増改築したり、土地全体を担保に入れてお金を借りる(抵当権設定)といった行為も含まれます。

そして民法第251条により、変更行為には共有者「全員の同意」が必須と定められているのです。(出典:e-Gov法令検索 民法第251条

たとえ100分の1の持分しか持っていない共有者が一人でも反対すれば、その不動産「全体」を売却することは法的に不可能になります。これが、共有名義不動産の売却が困難を極める最大の理由です。

ちなみに、不動産を「賃貸に出す」といった行為は「管理行為」と呼ばれ、「共有者の持分価格の過半数」の同意で可能です。これは人数の過半数ではなく、あくまで持分の割合の過半数である点に注意が必要ですね。

行為の種類具体例必要な同意
保存行為・不動産の軽微な修繕 ・不法占拠者への明け渡し請求各共有者が単独で可能
管理行為・不動産の賃貸借契約(短期) ・軽微なリフォーム (※)共有者の持分価格の「過半数」の同意
変更(処分)行為・不動産「全体」の売却 ・増改築、抵当権設定共有者「全員の同意」が必須

※2023年4月の民法改正により、「形状又は効用の著しい変更を伴わない」軽微な変更は管理行為(過半数で可)とされました。

売却を放置するリスクと相続問題

売却を放置するリスクと相続問題

売却が難しいからといって、共有状態を「とりあえず放置」してしまう。これが最も避けるべき選択です。なぜなら、問題は時間と共に、より深刻化する一方だからです。

リスク1:権利関係の「ねずみ算的」複雑化

最大のリスクは「相続の発生」です。共有者の一人が亡くなると、その持分は相続人に引き継がれます。もし法定相続人が複数人(例:配偶者と子供二人)いれば、持分はさらに細分化されます。

例えば、父Aと兄Bが1/2ずつ共有していた不動産で、兄Bが亡くなったとします。兄Bの相続人が妻Cと子D・Eだとすると、兄Bの1/2の持分は、妻Cが1/4、子Dが1/8、子Eが1/8で相続することになります。この時点で共有者はA、C、D、Eの4人です。

この相続が二代、三代と繰り返されると、共有者は「ねずみ算式」に増加します。最終的には、会ったこともない遠い親戚や、所在すら不明な人が共有者に加わる事態になり、合意形成は物理的に不可能になってしまいます。

また、相続が発生するたびに「相続登記」が必要になりますが、これが未了のまま放置されているケースも非常に多いです。相続登記は2024年4月から義務化されており、放置していると売却手続きそのものが進められなくなってしまいます。

「そもそも相続財産をどう分けるか」で悩んでいる方は、不動産相続の3つの分割方法を徹底比較|税金で損しないための完全ガイドも参考になります。共有にするか、誰かが引き継ぐかなど、分け方ごとのメリット・デメリットを整理しています。

リスク2:共有者の「人的リスク」

相続以外にも、人的リスクは潜んでいます。

  • 認知症・判断能力の低下:共有者の一人が認知症などで意思決定能力を失うと、売却への「同意」ができなくなります。この場合、家庭裁判所で「成年後見人」を選任するという、非常に時間と手間のかかる手続きが必要になります。申し立てから選任まで数ヶ月かかることもありますし、裁判所に予納金(数十万円)を納める必要がある場合もあります。
  • 自己破産・差押え:共有者の一人が借金などで自己破産したり、税金を滞納したりすると、その人の持分が差し押さえられ、競売にかけられることがあります。その結果、事情をよく知る専門業者(いわゆる「競売屋」)などが持分を落札し、新たな共有者として登場する可能性もあります。そうなると、他の共有者に対して「あなたの持分も買い取らせてほしい」あるいは「共有物分割請求訴訟を起こす」といった、より強硬な交渉が始まることもあり得ます。

リスク3:経済的負担

忘れてはならないのが、お金の問題です。共有者は、その不動産に住んでいるかどうかにかかわらず、持分割合に応じた固定資産税や都市計画税、マンションであれば管理費・修繕積立金などの支払い義務を負います。

「自分は住んでいないから払わない」という理屈は通用しません。実務上、固定資産税の納税通知書は共有者の代表者一人(多くは持分が一番多い人)にまとめて送られてきます。もし他の共有者が支払いに応じなくても、行政は待ってくれません。代表者が全額を立て替えざるを得ないケースも発生します。

共有名義に限らず、「相続した不動産をどう売却していくか」の全体像を整理したい場合は、相続した不動産を売却する方法|流れ・必要書類・税金をわかりやすく解説もチェックしてみてください。売却のステップや必要書類、税金の基本が一通り確認できます。

共有者が認知症や行方不明の場合

いざ売却しようにも、共有者が認知症で同意が取れない、あるいは行方不明で連絡がつかない、というケースも少なくありません。これらは法的な手続きを踏むことで解決の道を探ります。

共有者が「認知症」や「未成年」の場合

売買契約は有効な「意思表示」が前提です。認知症などで判断能力が不十分な場合、法定後見制度(成年後見人)の利用を家庭裁判所に申し立てます。申し立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族などです。選任された後見人が、本人に代わって財産管理や法律行為(売却への同意・契約)を行います。

成年後見制度は強力なサポートですが、一度選任されると本人が亡くなるまで続くことや、専門家(弁護士や司法書士)が後見人に選ばれた場合は継続的な報酬が発生するといった側面もあります。

【最重要】居住用不動産の場合

売却する不動産が、その認知症の方の「居住用不動産(住んでいる家)」である場合、話はさらに複雑です。後見人が同意するだけでは足りず、別途、家庭裁判所の「居住用不動産処分許可」を得る必要があります。

これは本人の生活基盤を守るための厳格な審査であり、単に「売りたいから」という理由だけでは許可が下りない可能性もあるため、細心の注意が必要です。

認知症による「資産凍結」が心配な方へ

成年後見制度は強力ですが、手続きの負担やコストもかかります。親御さんが元気なうちに、認知症になった後でも家族が財産を管理・売却できるように備える「家族信託」も有効な対策です。

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また、共有者が未成年の場合は、法定代理人である親権者(通常は両親)が同意・契約します。ただし、親権者自身も共有者であり、例えば親が子の持分を買い取るような場合、それは「利益相反行為」にあたります。この場合は、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立て、その特別代理人が未成年者に代わって契約行為を行う必要があります。

共有者が「行方不明」または「連絡が取れない」場合

この問題は長らく難関でしたが、2023年4月1日の民法改正により、解決の選択肢が増えました。

従来は「不在者財産管理人」を家庭裁判所で選任してもらう方法が主でした。しかし、この管理人が売却(変更行為)に同意するには、別途裁判所の「権限外行為許可」が必要で、手続きが煩雑で時間がかかる上、管理人に支払う予納金(数十万円~)も高額になりがちでした。

しかし、新制度では以下の方法が創設され、より実用的な解決策が示されました。

【2023年改正民法による新制度】

  1. 所在等不明共有者持分取得制度 裁判所(地方裁判所)の決定を得て、所在不明の共有者の持分を、他の共有者が(時価相当額の供託金を納付した上で)買い取ることができる制度です。「持分を集約して単独所有にしたい」「共有者の数を減らしたい」場合に有効です。
  2. 所在等不明共有者持分譲渡制度 所在不明者「以外」の共有者全員が売却に同意している場合、裁判所の決定を得て、不明者の持分も含めた不動産全体を第三者に売却する権限を、申立てをした共有者に付与する制度です。持分を買い取る手間やコスト(供託金)なしに、全体をまとめて売却できる、非常に強力な解決策です。

どちらの制度を使うかは状況によりますが、これにより、従来よりも格段に問題解決がしやすくなっています。

売却に必要な書類と準備

売却に必要な書類と準備

もし、共有者「全員」の同意が得られて不動産全体を売却する(後述のシナリオA)場合、原則として以下の書類が共有者「全員分」必要になります。これは本当に大変な作業です。

【全員合意売却の主な必要書類と取得場所】

  • 登記識別情報通知書または登記済権利証(いわゆる「権利証」です) → ご自身(または親御さんなど)が大切に保管しているはずです。
  • 印鑑登録証明書(通常、発行後3ヶ月以内) → 各自の住所地の市区町村役場
  • 実印 → 各自が用意
  • 住民票(登記簿上の住所と現住所が異なる場合) → 各自の住所地の市区町村役場
  • 土地測量図・境界確認書(特に土地や戸建ての場合) → 保管していれば。無い場合は、土地家屋調査士に依頼して作成(費用数十万円~)
  • 本人確認書類(運転免許証など) → 各自が用意

これらの書類を全員分揃えるのは、特に共有者が遠方に住んでいる場合など、想像以上に大変な作業です。誰かが取りまとめ役をやる必要がありますね。

特に注意が必要なのが、「権利証(登記識別情報)」を紛失した場合です。この場合、司法書士に依頼して「本人確認情報」という書類を作成してもらう(費用5万円~10万円程度)か、法務局からの「事前通知制度」を利用する(時間がかかる)必要があり、余計なコストや手間が発生します。

相続をきっかけに名義を整理したい方や、「相続登記と名義変更の違いがよく分からない…」という方には、不動産名義変更相続で損しないための注意点と費用相場を解説で、相続名義変更の流れと費用の目安を詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

共有物分割請求という最終手段

話し合いもまとまらず、自分の持分だけを売るのも望まない場合の、文字通りの「最終手段」が、裁判所を通じた共有物分割請求です。

これは、共有者の一人が、他の共有者に対して「共有状態の解消(分割)」を法的に請求する権利です。これは「形成権」と呼ばれる非常に強力な権利であり、他の共有者は「共有の解消を請求されたこと」自体を拒否できません。

ただし、いきなり訴訟(裁判)になるわけではありません。

  1. Step 1: 協議(話し合い):まずは当事者間で分割方法について話し合います。ここでまとまれば一番です。
  2. Step 2: 調停:協議がまとまらない場合、地方裁判所に「共有物分割調停」を申し立てます。調停委員という中立な第三者を介して、合意による解決を目指します。
  3. Step 3: 訴訟:調停でも不成立の場合、「共有物分割請求訴訟」を提起します。最終的に裁判官が、法律に基づき分割方法を判決で決定します。

訴訟になった場合、裁判所が、不動産の状況や当事者の意向を総合的に考慮し、以下のいずれかの判決を下します。

分割方法概要特徴・注意点
① 現物分割不動産そのものを物理的に分割する。(例:土地を分筆する)・家屋など物理的に分割が難しい不動産では適用困難。 ・適用ケースは限定的。分筆費用も発生する。
② 代償分割 (全面的価格賠償)共有者の一人が不動産全体を取得し、他の共有者に持分相当の金銭を支払う。・取得希望者に「十分な資力(支払い能力)」の証明(預金残高証明書など)がなければ認められない。
③ 換価分割不動産を売却(主に競売)し、その代金を持分に応じて分配する。・現物・代償分割が困難な場合の最終手段。 ・「競売」になると、市場価格の5~7割程度という非常に安い価格になるリスクがある。

競売価格が安くなるのは、一般の市場と違い、内覧が自由にできなかったり、権利関係が複雑なまま売買されたりするため、買い手が専門業者などに限定されてしまうからです。

【訴訟のデメリット】

訴訟は、法的に強制力がある半面、多大なコストがかかります。

  • 時間:解決までに6ヶ月〜1年以上かかることも珍しくありません。
  • 費用:弁護士費用(着手金・報酬金)、訴訟実費(印紙代など)、不動産鑑定費用(数十万円)などが必要です。
  • 人間関係:訴訟という手段をとることで、親族間の関係は決定的に悪化する可能性が高いです。

特に「換価分割=競売」となった場合、全員が損をしてしまうため、訴訟はあくまで「最後の砦」と考えるべきです。

共有名義の不動産売却 3つの方法

共有名義の不動産売却 3つの方法

さて、ここまで共有名義不動産の難しさをお伝えしてきましたが、ここからは具体的な解決策(売却方法)を3つのシナリオに分けてご紹介します。どの方法が最適かは、共有者間の関係性や状況によって大きく異なります。

コンサルタント @KAZU

まず「理想(全員合意)」を目指し、それが無理なら「現実(持分売却)」で離脱する。この2択を基本に考えましょう。「訴訟(最終手段)」は、それらを経てもなお解決しない場合の選択肢です。感情的にならず、経済的合理性で判断することが大切ですよ。

ご自身の持分だけでも早く手放したい、他の共有者と関わりたくない…

という場合は、専門の買取業者への売却が最も現実的な解決策です。複雑な権利関係や共有者との交渉もすべて任せられます。

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全員合意で売却する流れ

これが、最も経済的メリットが大きく、理想的な方法(シナリオA)です。不動産全体を一つの商品として市場で売却するため、近隣相場に最も近い価格、すなわち一番高く売れる可能性が高い選択肢です。

売却プロセスの流れ

流れ自体は通常の不動産売却と似ていますが、各ステップで「全員の合意」が必要になるのが特徴です。

  1. 持分割合の確定:登記簿謄本で、現在の共有者全員と持分割合を正確に把握します。
  2. 不動産会社へ査定依頼複数の会社に査定を依頼し、売却価格の相場を全員で共有します。「いくらで売るか」という最初の合意形成がここです。
  3. 媒介契約の締結:売却を依頼する不動産会社を全員で決定し、契約(媒介契約)します。共有者全員が契約書に署名・捺印するのが原則ですが、代表者一人を決めて、他の人は「委任状」を渡す形で進めるのが一般的です。
  4. 売買契約の締結:買主が見つかったら、売買条件(価格、引き渡し時期など)を全員で合意の上、売買契約を締結します。ここでも原則、共有者「全員」が売主として署名・捺印(実印)します。
  5. 決済・引き渡し:買主から代金を受領し、司法書士の立ち会いの下、所有権移転登記を行います。この場にも全員の出席が求められるのが理想ですが、委任状で対応することも可能です。

売却代金から仲介手数料などの諸費用を差し引いた額を、原則として各自の持分割合に応じて公平に分配します。この分配方法についても、事前に「諸費用を差し引いた後の金額を、持分割合で分配する」といった内容の合意書を共有者間で交わしておくと、後のトラブルを防げます。

専門業者へ持分のみを売却する

専門業者へ持分のみを売却する

共有者間で意見が対立し、全員の同意が到底得られない場合の、最も現実的かつ迅速な解決策(シナリオB)が、ご自身の「共有持分のみ」を売却することです。

前述の通り、ご自身の持分を売却するのに他の共有者の同意は不要です。

売却先としては、以下の選択肢があります。

  • 他の共有者に売却する:関係性が良好で、相手に買い取るだけの資力があれば、これが最も穏便です。ただし、身内であるがゆえに価格交渉が感情的になり、かえって話がこじれるケースもあります。
  • 専門の「共有持分買取業者」に売却する:交渉が困難な場合の主要な選択肢です。

これらの業者は、権利関係が複雑な共有持分を専門に買い取り、その後の法的手続きや他の共有者との交渉をすべて引き受けてくれます。

専門買取業者の選び方

もし専門業者への売却を選ぶ場合は、業者選びが非常に重要です。単に「不動産屋」というだけでは対応できない専門知識が求められるからです。

【買取業者選びのチェックポイント】

  • 共有持分の取り扱い実績が豊富か(会社のウェブサイトなどで確認)
  • 査定の根拠(なぜその金額なのか)を明確に説明してくれるか
  • 弁護士や司法書士と提携し、法務サポート体制が整っているか
  • 担当者の対応が誠実か、強引な営業をしてこないか

必ず複数の業者に査定を依頼し、価格だけでなく、その対応や条件もしっかり比較検討してください。

【持分売却のメリットとデメリット】

メリット:

  • 他の共有者の同意が一切不要。
  • 迅速に売却・現金化できる(最短数日~数週間)。
  • 固定資産税の支払いや管理の負担、将来の相続トラブルなど、一切のストレスから法的に解放される。

デメリット:

  • 売却価格が著しく安くなります。不動産全体の市場価格×持分割合よりも大幅に低く、場合によってはその半分以下になることもあります。
  • 他の共有者との関係性が(すでに悪いかもしれませんが)決定的に悪化する可能性があります。

なぜ価格が安くなるのか? それは、買取業者が買っているのが「不動産そのもの」ではなく、「他の共有者と交渉する権利」や「訴訟を起こす権利」という、非常に扱いにくい法的な地位だからです。

この価格差は、「トラブルから即座に離脱するための手数料」と理解する必要があります。安くても今すぐ手放したいか、時間がかかっても高く売る努力を続けるか、ご自身の状況に合わせて判断することが重要です。

売却にかかる費用と内訳

不動産売却時には、様々な諸費用が発生します。これらも基本的には持分割合に応じて按分(あんぶん)することが多いですが、誰が何を負担するかは事前にしっかり話し合っておくべきです。

【主な売却諸費用の目安】

  • 仲介手数料:不動産会社に支払う成功報酬です。 (速算式:売買価格400万円超の場合、(売買価格 × 3% + 6万円) + 消費税 が上限)
  • 印紙税:売買契約書に貼付する印紙代です。 (例:契約金額1千万円超 5千万円以下なら1万円 ※2024年3月31日までの軽減措置適用時)
  • 登録免許税:売主側の登記簿上の住所が現住所と違う場合の「住所変更登記」(1件1,000円)や、住宅ローンが残っている場合の「抵当権抹消登記」(1件1,000円)の費用は売主負担です。司法書士への報酬も別途かかります。
  • その他の費用
    • 相続登記費用:相続登記が未了だった場合、司法書士への依頼費用(数万円~十数万円)
    • 土地測量費用:土地の境界が未確定の場合、土地家屋調査士への依頼費用(数十万円~)
    • 建物解体費用:古家を解体して更地で売る場合(木造で坪4~5万円程度が目安)
    • 弁護士・司法書士費用:持分売却や訴訟を選択した場合

これらの費用が売却代金から差し引かれることを考慮して、売却価格や手取り額を計算する必要があります。

共有名義の不動産売却についてよくあるご質問FAQ

共有名義の不動産売却についてよくあるご質問FAQ

ここで、実務でよくいただくご質問をFAQ形式でまとめますね。

共有持分のみの売却は他の共有者にバレずにできますか?

業者によっては他の共有者に知られずに手続きを進めることも可能な場合があります。ただし、最終的に登記名義が移転しますので、登記簿を見ればいずれ知られることになります。

共有名義の不動産売却で委任状は使えますか?

はい、全員合意で売却する際、売買契約や決済に全員が集まれない場合、代表者一人に他の共有者が委任状を交付して手続きを進めることが一般的です。

相続登記がまだ完了していませんが、売却は可能ですか?

いいえ、売却の前提として相続登記を完了させ、現在の正しい所有者を登記簿に反映させる必要があります。2024年4月からは相続登記が義務化されてもいます。

売却に反対する共有者を説得する良い方法はありますか?

感情論ではなく、客観的なデータを提示することが有効です。具体的には、「放置した場合のリスク(税金負担、将来の相続での複雑化)」と、「売却した場合のメリット(特に後述する3,000万円控除の節税効果)」を数字で示すと良いでしょう。

共有者の一人が税金を滞納していると売却できませんか?

その人の持分が差し押さえられている場合、売却は極めて困難です。売却代金から滞納分を支払うなど、債権者(役所など)の同意を得て差押えを解除してもらう必要があります。

売却益の税金と3000万円控除

不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して所得税・住民税(あわせて「譲渡所得税」)が課税されます。

【譲渡所得の計算式】

譲渡所得 = 収入金額(売却価格) - (取得費 + 譲渡費用)

取得費:その不動産を購入したときの代金や手数料など。不明な場合は売却価格の5%(概算取得費)しか経費にできず、税金が高額になるので注意が必要です。

譲渡費用:売却のためにかかった仲介手数料や印紙代など。

共有名義の場合、この計算と確定申告を、共有者「それぞれ」が自分自身の持分に応じた収入金額、取得費、譲渡費用を計算して行う必要があります。

税率は、売却した年の1月1日時点で、不動産の所有期間が5年を超える(長期)か否か(短期)で大きく異なります。

所有期間区分税率(合計)内訳(所得税+復興特別所得税 / 住民税)
5年以下短期譲渡所得39.63%30.63% / 9%
5年超長期譲渡所得20.315%15.315% / 5%

税率が倍近く違いますね。相続で取得した場合は、亡くなった方(被相続人)が取得した時期を引き継ぎます。

【重要】節税の鍵:「居住用財産の3,000万円特別控除」

ここが税制面で最も重要なポイントです。 自分が住んでいた家(居住用財産)を売却した場合、一定の要件(居住期間や、売却後一定期間内であることなど)を満たせば、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる強力な特例があります。

そして、共有名義における最大のメリットは、この控除が「不動産1つにつき」ではなく、「要件を満たす共有者1人につき」最大3,000万円まで適用可能な点です。

【例】夫婦共有(各1/2)の自宅を売却し、8,000万円の利益が出た場合(二人とも居住要件を満たす)

■単独名義の場合

8,000万円(利益) – 3,000万円(控除)= 5,000万円(課税対象)

■夫婦共有の場合

夫:4,000万円(持分1/2) – 3,000万円(控除)= 1,000万円(課税対象)

妻:4,000万円(持分1/2) – 3,000万円(控除)= 1,000万円(課税対象)

結果、夫婦共有の場合は課税対象が合計2,000万円となり、税額が大幅に軽減されます。これは、シナリオA(全員合意)を目指すための非常に強力な交渉材料になりますね。

ただし、この特例はあくまで「居住用」が前提です。相続した実家で、誰も住んでいないようなケースでは基本的に使えません。(例外的に「空き家の3,000万円控除」が使える場合もありますが、要件が非常に厳しいです)

また、シナリオB(持分のみの売却)では、この控除は原則として利用できませんので、税金面でも不利になる可能性が高いです。

ご実家の「モノ」の整理も忘れずに

不動産の売却とあわせて、ご実家にある不要な品々の整理も進めると効率的です。専門の買取サービスなら、ご自身では価値がわからないものも査定してくれます。

売却以外の選択肢、持分放棄とは

売却以外の選択肢、持分放棄とは

売却による現金化にはこだわらず、とにかく共有関係のストレスから離脱したい、という場合の選択肢です。

  • 持分の贈与:自分の持分を、他の共有者などに無償で譲る(贈与する)方法です。金銭的な対価は得られませんが、交渉の手間なく関係を解消できます。ただし、もらった側(受贈者)には、その持分の評価額に応じた「贈与税」が課される可能性があります(年間110万円の基礎控除を超えた場合)。さらに、不動産取得税や登記の際の登録免許税も受贈者負担となるため、かえって相手に経済的負担を強いる場合があります。
  • 持分の放棄:自分の持分を「放棄」する意思表示をすることです。これは相手の同意を必要としない「単独行為」とされています。放棄された持分は、民法の規定により、他の共有者にその持分割合に応じて帰属することになります。

【持分放棄の注意点】

「放棄」は手軽そうに見えますが、実務上は大きな問題をはらんでいます。放棄によって他の共有者に持分が移転することは、実質的に「贈与」とみなされ、他の共有者に贈与税が課されるリスクがあります。

また、登記手続きが非常に複雑になる可能性もあり、トラブルを避けるためにも、放棄を希望する場合は事前に他の共有者に相談し、司法書士や税理士といった専門家を交えて進めることが強く推奨されます。一般的にはあまり推奨されにくい選択肢です。

【免責事項】

この記事に記載されている情報は、2025年11月現在の一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的な助言や税務上の見解を示すものではありません。

法律や税制は改正される可能性があり、個々の具体的な状況によって適用が異なります。共有名義不動産の売却や相続、税務に関する最終的な判断や手続きについては、必ず弁護士、司法書士、税理士などの専門家にご相談ください。

共有名義の不動産売却は終活だよドットコムで

共有名義の不動産売却は、法律、税金、そして何より「人間関係」が複雑に絡み合う、非常にデリケートな問題です。ここまでお読みいただき、その大変さを改めて実感されたかもしれません。

コンサルタント @KAZU

共有名義の不動産は「終活」の観点からも、非常に重要なテーマです。なぜなら、あなたが問題を先送りすると、その「面倒」は必ず次の世代(お子さんやお孫さん)が引き継ぐことになるからです。彼らの代では、共有者はさらに増え、解決は今よりもっと困難になります。問題を自分の代で清算すること、それこそが最高の「終活」の一つだと私は考えています。

最善の道は、経済的メリットが最も大きい「全員合意での売却」です。特に「3,000万円控除」は、反対する共有者への強力な交渉材料になります。

それが不可能なら、「持分のみの売却」でご自身のストレスや負担から早期に離脱することも、賢明な「現実的」選択です。ただし、価格が大幅に下がるという「手数料」を支払う覚悟が必要です。

そして、最も避けるべきは、問題を先送りし「何もしない」こと。共有名義の問題は、時間と共に必ず悪化します。

まずは、あなたの状況を整理することから始めましょう。

【今日からできるアクションプラン】

  1. 「登記簿謄本(全部事項証明書)」を取得する まずは法務局で最新の登記簿謄本を取得し、「現在の共有者は誰か」「持分割合はどうなっているか」を正確に把握しましょう。これが全てのスタートです。(オンラインでも取得できますよ)
  2. 共有者全員の「売却意思」を確認する (可能であれば)電話や手紙、メールなどで、他の共有者が売却についてどう考えているか、意向を打診してみましょう。その際、この記事で読んだ「放置するリスク」や「3,000万円控除のメリット」などを材料に使うと良いでしょう。
  3. 早めに専門家に相談する 意見が割れそうだ、あるいは認知症や行方不明者がいて話し合いの土台にも乗らない、と感じたら、すぐに専門家(弁護士、司法書士、または私たちのような終活・不動産の専門家)に相談してください。

あなたのその一歩が、未来の大きなトラブルを防ぎます。応援しています!

共有名義の不動産問題は、法的な知識と交渉力が必要です。

「どう進めたらいいか分からない」「他の共有者と話したくない」

そんな時は一人で抱え込まず、まずは専門家の力を借りましょう。

共有名義・持分のみでもOK!まずは無料相談で我が家の診断

訳あり不動産や相続・遺品整理をまとめて整理したい方へ
訳あり不動産・相続・遺品整理の総合ガイド|孤独死・共有名義・再建築不可まで状況別にやさしく解決 では、このページを含む関連テーマを「状況別」に一覧でまとめています。

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この記事を書いた専門家

保有資格: 相続診断士 / 宅地建物取引士 / AFP(日本FP協会認定)など20種以上

不動産・金融業界で15年以上の実務経験、1,500件以上の相談実績を持つ相続・終活・不動産相続のプロフェッショナル。法律・税務・介護の専門家と連携し、ご家族に寄り添った円満な終活・相続を実現します。

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