家族信託トラブル事例と回避策を専門家が解説

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終活だよドットコムの運営者、終活・相続・不動産の専門家のカズです。

「家族信託 トラブル事例」と検索されたあなたは、親御さんの認知症対策や不動産管理のために家族信託を検討しつつも、そのデメリットや失敗例が気になっているのではないでしょうか。せっかく家族のために準備したのに、家族信託が原因で使い込みが起きたり、兄弟で揉めることになったりしたら、元も子もないですよね。

家族信託の遺留分に関する問題や、税務署から思わぬ指摘を受ける可能性、あるいは「家族信託はやめたほうがいい」といった意見も目にして、不安が大きくなっているかもしれません。実際、家族信託の設計を間違えると、深刻な問題を引き起こす可能性があります。

この記事では、相続・不動産の専門家である私が、多くのご相談で見てきた家族信託のトラブル事例を徹底的に分析し、その具体的な回避策を分かりやすく解説します。この記事を読めば、家族信託の本当のリスクと、それを防ぐための正しい知識が身につき、安心してご家族のための準備を進められるようになりますよ。

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この記事のポイント
  • 家族信託で起こりがちな4大トラブル(金銭・親族・不正・契約)の具体例
  • 認知症による資産凍結と家族信託の本当の役割
  • 受託者の「使い込み」や「差押え」を防ぐ最強の対策
  • 失敗しない専門家選びと、トラブル回避のための設計ポイント
コンサルタント @KAZU

家族信託のトラブルは、多くの場合「お金」そのものではなく、「人」の問題、つまり家族間のコミュニケーション不足から始まります。契約書を作る前に、まずご家族全員で「なぜ信託が必要なのか」という目的を共有する「家族会議」の場を持つことが、何よりも重要なトラブル予防策になりますよ。

目次

認知症対策の前に知る家族信託トラブル事例

認知症対策の前に知る家族信託トラブル事例

家族信託は、認知症による資産凍結を防ぐ強力なツールとして、近年急速に注目されています。テレビや雑誌で「夢の制度」のように紹介されることもありますね。しかし、その設計の自由度の高さゆえに、見落としがちな「落とし穴」も非常に多いのが実情なんです。

トラブルの多くは、この「認知症対策」という分かりやすいメリットと、その実態(信託法・税法・民法が複雑に絡み合う高度な法律行為)との間に存在する深刻なギャップから生じます。

資産凍結という当面の不安を解消することに集中するあまり、将来の税務リスクや相続人間の感情的な対立といった、別次元の重大な問題を見落としがちです。ここでは、私が実務で特に多く見聞きする、代表的なトラブル事例を5つのパターンに分けて、その実態を詳しく解説していきますね。

認知症による不動産売却と資産凍結

家族信託を検討する最大の動機、それはやはり「認知症による資産凍結」への備えでしょう。親御さんが認知症になり、不動産売却の方法に困るケースは後を絶ちません。

例えば、親御さんが認知症と診断され、意思能力(判断能力)が不十分とみなされると、法律上、ご本人は契約などの法律行為ができなくなります。これは、ご本人の財産を守るための仕組みなのですが、ご家族にとっては大きな壁となります。

たとえご家族であっても、親御さんの預金口座から定期預金を解約したり、介護施設の入居金のために実家(不動産)を売却したりすることが法的に一切できなくなります。

これが、いわゆる「資産凍結」の状態です。実際に「親の介護費用が月30万円かかるのに、親の預金(定期)が解約できず、子供たちが立て替えている」という切実なご相談は非常に多いです。

「ウチは家族だから大丈夫」「キャッシュカードを預かってるから平気」と思っていても、それは非常に危険です。まず、キャッシュカードでの引き出しは、ATMの限度額までしかできず、高額な入居一時金などには対応できません。

さらに、金融機関は口座名義人の意思確認が取れないと高額な出金や解約には応じてくれませんし、法務局も不動産売却の登記申請(所有権移転)を受け付けてくれません。結果として、親御さんの介護費用が足りないのに、親御さんの財産は使えない…という八方ふさがりの状態に陥ってしまうのです。

資産凍結の対抗策「成年後見制度」との違い

この資産凍結状態になってから唯一、法的に財産を動かせるようにする制度が「成年後見制度」です。

しかし、この制度は、あくまでご本人の財産を「守る」ことを最優先とするため、家庭裁判所が選んだ弁護士や司法書士などの専門家が後見人になることが多く、ご家族が望むような柔軟な財産管理(例えば、相続税対策のための生前贈与や、将来の住み替えを見越した実家の売却)は原則として認められません。

さらに、一度制度が始まると、親御さんが亡くなるまで専門家への報酬(月額数万円)が継続的に発生し、財産利用にも都度、家庭裁判所の許可が必要になるなど、手続き面でも心理面でもご家族の負担は小さくありません。(成年後見制度での不動産売却は非常にハードルが高いのです。)

家族信託が「効く」理由

家族信託は、親御さんが元気なうちに「もし将来、自分が認知症になったら、長男(受託者)に不動産の売却や預金の管理をお願いします」という「契約」をあらかじめ結んでおく仕組みです。これにより、万が一親御さんの判断能力が低下した後でも、契約に基づき、受託者であるご家族が計画通りに財産を管理・売却でき、資産凍結という最悪の事態を回避できるわけです。

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家族信託の使い込みは防げるか

家族信託の使い込みは防げるか

家族信託における最大の悪夢、それは財産管理を任せたはずの受託者(例えば子の一人)による「使い込み」です。これは、残念ながら家族信託トラブルの中でも特に深刻で、信頼関係を完全に破壊してしまう問題です。

なぜ、信頼していたはずの我が子による使い込みが起きてしまうのでしょうか。その主な原因は「監視の目がない」状態を作ってしまうことにあります。

  • 受託者に管理を丸投げ: 他の兄弟や親族が、財産がどう管理されているか全く知らない。「長男がやってくれている」という信頼が裏目に出ます。
  • 個人口座での管理: 信託専用の口座(信託口口座)を作らず、受託者個人の口座にお金を入れてしまう。これが不正の温床です。
  • 収支報告がない: 信託法では受託者に帳簿作成や報告義務が課されていますが、家族間だと「まあ、いいか」と曖昧になりがちです。

特に危険なのが「個人口座での管理」です。受託者自身の生活費と、親御さんから託された信託財産が同じ口座で混在してしまうと、「親の介護費用で立て替えた分だから」「後で戻せばいい」といった身勝手な理由で、受託者の心理的なハードルがどんどん下がってしまいます。最初は数万円の立て替えだったものが、いつしか自身の借金返済や遊興費にまで流用されてしまう…そんな悲しいケースも現実に起きています。

受託者の「使い込み」は横領です

受託者が信託財産を私的に流用する行為は、信託契約違反であると同時に、民事上の損害賠償請求の対象となります。さらに、刑法上の「業務上横領罪」という重い犯罪に該当する可能性もあります。しかし、家族間の問題(親族相盗例という刑法上の規定)として、刑事事件化が難しいケースもあり、「起きてからでは遅い」のが現実なのです。

受託者は誰がなる?兄弟で揉める原因

家族信託は、その温かい名称とは裏腹に、家族間の対立を生む火種にもなり得ます。実務上、最も多いのが、「受託者を誰にするか」という問題です。

受託者には、信託契約に基づき、不動産の売却や預金の管理、アパート経営の判断など、財産に関する広範な権限が集中します。そのため、受託者に選ばれなかった他の兄弟姉妹から見ると、

  • 「なぜ長男(受託者)だけが親の財産を自由にできるのか」
  • 「私たちに情報を隠して、自分に都合よく財産を管理するのではないか」
  • 「将来、財産を独り占めするつもりではないか」

といった不信感や不公平感につながりやすいのです。親御さんが元気なうちは良くても、相続が近づくにつれ、こうした疑念が増幅していきます。

特に、親御さんの介護を主に担っている方が受託者になるケースでは、「自分はこんなに介護で苦労している(だから財産管理も自分がやるべき)」という受託者側の思いと、「介護を盾に財産管理の権限まで握ろうとしている」という他の兄弟の疑念が衝突し、感情的な対立が先鋭化することもあります。

「共同受託者」は解決策になるか?

この対策として「兄弟全員で共同受託者になる」という方法も理論上は可能です。全員でチェックし合えば不正は起きないだろう、という発想ですね。しかし、これは実務上、お勧めできないケースが多いです。なぜなら、不動産売却や高額な修繕といった重要な信託実務を行う際、受託者「全員」の合意と実印が必要になるからです。

もし兄弟の一人が海外に住んでいたり、連絡が取りづらかったり、あるいは単純に「今は売り時じゃない」と反対したりした場合、全ての手続きがストップしてしまいます。これでは、迅速な財産管理という家族信託の最大のメリットが損なわれてしまいますよね。

遺留分侵害で信託が無効になる?

遺留分侵害で信託が無効になる?

「家族信託を使えば、特定の相続人に財産を渡さないようにできる」「遺留分対策になる」といった情報を、インターネットなどで目にすることがあります。ですが、専門家としてハッキリ申し上げますが、これは極めて危険な誤解です。

遺留分とは、法律で定められた相続人(配偶者や子など)に最低限保障された遺産の取り分のことです。たとえ遺言や信託契約で「介護を一切しなかった次男には財産を渡さず、長男に全て承継させる」と定めたとしても、法律で保障された次男の遺留分まで奪うことはできません。

この場合、親御さんの相続が発生した後、財産をもらえなかった次男は、財産を多く受け取った長男に対して「遺留分侵害額請求」という法的な権利を行使できます。これは、分かりやすく言えば「法律で決まった俺の取り分(遺留分)が侵害されているから、その分のお金を払ってくれ」と請求できる権利です。

こうなると、家族信託で円満な承継を目指したはずが、結果として家族間で金銭トラブル、最悪の場合は裁判という「最悪の相続(争続)」を引き起こすことになります。信託で遺留分を意図的に回避しようとする設計は、火種を未来に先送りするだけの危険な行為なのです。

遺留分回避目的の信託は無効の可能性も

過去の裁判例(東京地裁平成30年9月12日判決)では、遺留分を意図的に回避する目的で作られた家族信託について、その有効性を否定する(実質的に無効と判断する)判決も出ています。裁判所は、形式的な契約内容だけでなく、その実質的な目的が「遺留分制度を骨抜きにするもの」であれば、それを許さないという厳しい姿勢を示しています。

契約書の不備と信託の強制終了リスク

家族信託は「契約」です。そのため、その土台となる契約書(信託契約書)の設計に法的な不備や考慮漏れがあると、信託そのものが意図せず終了してしまったり、無効になったりする重大なリスクがあります。

ケース1:信託が強制終了する「1年ルール」

これは専門家でも見落としがちな、信託法のテクニカルなルールです。信託法には「受託者(管理する人)」の地位と「受益者(利益をもらう人)」の地位が同一人物に帰属し、その状態が1年間継続した場合、その信託は法律上、強制的に終了する、というルールがあります。(出典:e-Gov法令検索『信託法』第百六十三条三号)

例えば、「親(受益者)が亡くなったら、次は受託者である長男(子A)が受益者になる」と定めていたとします。この場合、親の死亡により、子Aは「受託者」であり、かつ「受益者」となります。この状態が1年続くと、信託は法律上自動的に終了してしまうのです。

もし「子Aの後は、孫Bへ承継させたい」という数世代にわたる計画を立てていても、このルールを知らずに設計すると、信託は子Aの代で強制終了。その後の孫への承継は実現できず、財産は子A個人のものになってしまいます。

これを防ぐには、契約書作成時点で「子Aが受益者となった場合は、受託者を(例:子Aの配偶者や、他の兄弟である子Bに)変更する」といった回避策や、予備の受託者(第二受託者)をあらかじめ指定しておくといった工夫が必要です。

ケース2:契約時の「意思能力」の欠如

これが最も根本的で、取り返しのつかない問題です。家族信託は、委託者である親御さんが元気で、契約内容(自分の財産を、誰に、何の目的で、どう管理してもらうか)を十分に理解できる「意思能力(判断能力)」があるうちに結ぶ必要があります。

「最近少し物忘れが目立つけど、まだ大丈夫だろう」というご家族の自己判断が一番危険です。もし親御さんの認知症が既に進行しており、契約時に十分な判断能力がなかったと後で認定されれば、その信託契約自体が「無効」と判断されるリスクが非常に高くなります。

他の相続人から「あの契約は、親がまともな判断できない状態の時に結ばれたものだ!」と訴訟を起こされる可能性もあるのです。

安全に進めるためには、契約を公正証書にする際、公証人に親御さんの意思確認をしっかりしてもらうことはもちろん、場合によっては事前に医師の診断書(意思能力に問題がないことの証明)を取得しておくといった慎重さも必要になります。

ケース3:信託できない財産を指定

信託契約書に「信託財産」として記載したものが、そもそも法律上または実務上、信託できない財産だった、というケースもあります。これでは財産管理の計画が根本から崩れてしまいます。

  • 農地(田・畑):農地は農地法という法律で厳格に規制されており、所有権の移転(信託登記)には農業委員会の許可が必要です。しかし、「家族信託を理由とした農地の信託」は、原則としてこの許可が下りません。
  • 年金受給権:年金を受け取る権利は、その本人だけが行使できる「一身専属権」と呼ばれる権利です。他人に譲渡したり、信託したりすることは法律で禁止されています。

これらの財産を信託の計画に組み込んでしまうと、その部分の信託は無効となり、財産管理の計画全体が破綻する可能性があります。

家族信託トラブル事例を回避する専門家の知恵

家族信託トラブル事例を回避する専門家の知恵

ここまで読んで、「家族信託は危険だらけだ…」「ウチには無理かもしれない」と感じられたかもしれません。ですが、ご安心ください。これらのトラブル事例は、いわば「予防接種」のようなものです。事前にリスクを知っておけば、その全てに対策を打つことができます。

実際、これらのトラブル事例のほとんどは、「知っていれば防げた」ものばかりです。ここでは、相続・不動産の専門家である私の視点から、これらの深刻なトラブルを回避するための具体的な「知恵」を伝授します。

コンサルタント @KAZU

家族信託の設計は、精密なパズルのようなものです。一つのピース(例えば「使い込み防止」)だけを考えてもダメで、「税務」「法務」「家族関係」という全てのピースがカチッとはまる設計図が必要です。そのためには、信頼できる専門家チーム(司法書士・税理士)のサポートが不可欠になりますよ。

予期せぬ贈与税や不動産取得税の罠

家族信託の設計において、法律(信託法・民法)と同じくらい、あるいはそれ以上に複雑で落とし穴が多いのが「税務」です。ここで間違うと、本来払う必要のなかった高額な税金が突如として発生し、信託の目的そのものが脅かされます。

ケース1:信託設定時の「贈与税」

家族信託における税務は、「財産から利益を受けるのは誰か(=受益者)」を基準に判断されます。

通常の「委託者(財産を出す人=親)=受益者(利益をもらう人=親)」という信託(これを自益信託といいます)では、財産の実質的な所有者(利益を受ける人)は変わらないため、贈与税は課税されません。名義が親から子(受託者)に変わるだけでは、税金は発生しないのです。

しかし、「委託者(親)」と「受益者(子)」が異なる信託(これを他益信託といいます)を組むと、信託を設定した瞬間に「親から子へ財産が贈与された」とみなされ、受益者である子に対して高額な贈与税が課税されます。これは典型的な設計ミスです。

ケース2:信託終了時の「みなし贈与税」

これが非常に巧妙で、深刻な罠です。「委託者=受益者=親A」で信託を開始し、「親Aが亡くなったら、信託を終了し、財産は帰属権利者として子Bが取得する」と定めていたとします。この場合、子Bが財産を取得する原因は「相続」ではなく「信託契約」です。

税法上の複雑な解釈により、この子Bが「特定委託者」に該当する可能性があり、その結果、子Bが取得した財産は「相続税」の対象ではなく「みなし贈与税」の対象となる恐れがあります。

相続税であれば基礎控除(相続税の計算では3,000万円+600万円×相続人数)で無税だったはずのケースでも、贈与税(基礎控除 年間110万円)になったことで、数百万円、場合によっては数千万円の納税が突如として発生する…といった悪夢のような事態があり得るのです。

ケース3:アパート経営の「損益通算」ができない

複数の収益不動産を持つオーナー様が、その一部だけを信託する場合も注意が必要です。例えば、黒字のAアパートだけを信託財産とし、赤字のBアパートをオーナー個人の財産として所有し続けたとします。

この場合、税務上、信託財産(Aアパート)から生じる所得と、個人財産(Bアパート)から生じる損失は、別個の主体として扱われます。その結果、Aアパートの黒字とBアパートの赤字を相殺(損益通算)することができなくなり、全体の所得税額が信託設定前よりも増加してしまう可能性があります。

さらに、AアパートとBアパートをそれぞれ「別の信託契約」で信託した場合、信託A(黒字)と信託B(赤字)の間でも、損益通算は認められません。

ケース4:居住用財産の3,000万円特別控除が使えない

信託したご実家(親御さんが居住)を、将来的に売却する場合の落とし穴です。親御さんが認知症になった後、受託者である子がその実家を売却したとします。この時、税務上の所有者はあくまでも「受託者(子)」です。実際に居住している「受益者(親)」ではありません。

そのため、売却益が出た場合でも、居住用財産の譲渡益から3,000万円を控除する、あの非常に大きな節税特例(マイホーム特例)が適用できない可能性が高くなります。これも、信託設計時に税務の専門家が関与していれば防げたトラブルです。

家族信託の税務や費用についてよくあるご質問FAQ

家族信託の税務や費用についてよくあるご質問FAQ
家族信託は税務署にバレるのですか?

「バレる」というより、不動産を信託すれば法務局に登記され、税務署はそれを把握できます。特に相続発生時は、税務署は信託契約書の内容を精査し、課税関係を厳しくチェックします。

家族信託の費用を安くする方法はありますか?

専門家報酬は、信託する財産額(特に不動産)を必要最小限に絞ることで抑えられます。ただし、費用節約のために公正証書にしなかったり、専門家に頼まなかったりすると、後で大きなトラブルになるため推奨しません。

家族信託と成年後見制度の違いは何ですか?

成年後見は「判断能力が低下した後」に家庭裁判所が後見人を選び、財産を「守る」制度です。家族信託は「低下する前」にご家族(受託者)を選び、財産を「活用する」契約です。

信託口口座がないと差押えの危険性

受託者の「使い込み」対策として、そして信託財産全体を守るための「最強の防壁」として、「信託口口座」の開設は必須中の必須です。

これは、受託者個人の財産とは法的に「分別」される、信託財産専用の管理口座です。「〇〇信託口 受託者 長男A」といった名義になります。もし、この口座を作らずに受託者個人の口座で管理していた場合、前述の「内部リスク(使い込み)」に加えて、もう一つの致命的な「外部リスク」が発生します。

  1. 内部のリスク:使い込みの温床になる。(前述)
  2. 外部のリスク:これが最悪の事態です。

受託者の破産で、親の財産が差し押さえられる!

受託者(子)が誠実な人物であったとしても、その子の事業が失敗したり、住宅ローンが滞納したり、あるいは連帯保証人になっていたりして、多額の借金を負い破産したとします。

その子の「個人口座」に、実質的には親(委託者)の信託財産が入っていた場合、受託者(子)の債権者(銀行やサラ金など)は、その口座を「受託者個人の財産」とみなし、合法的に差し押さえることができてしまうのです。

しかし、「信託口口座」(特に「信託」の登記がされた口座)にあれば、法的に受託者個人の財産とは明確に区別されます。そのため、仮に受託者(子)が破産しても、信託口口座内の財産は差し押さえの対象になりません。この「倒産隔離機能」こそが、信託口口座の最大のメリットであり、これを利用しない手はありません。

ただし、全ての金融機関が信託口口座に対応しているわけではなく、また、「信託口」という名前がついていても、この倒産隔離機能が不十分な「単なる屋号付き口座」レベルの場合もあります。どの金融機関で、どのような機能を持つ口座を開設するかも、専門家選びの重要なポイントになります。

家族信託の費用、相場はいくら?

家族信託の費用、相場はいくら?

家族信託の導入には、主に初期費用(コンサルティング費用、公正証書作成費、登記費用など)がかかります。どの専門家に依頼するか、信託する財産額(特に不動産の評価額)はいくらかによって大きく変動しますが、一般的な目安は以下の通りです。

これらの費用はあくまで一例であり、設計の複雑さや財産額によって変動しますので、必ず事前に見積もりを取ることが重要です。

費用の種類内容費用の目安
専門家コンサルティング費用司法書士や弁護士への信託設計・契約書作成の報酬信託財産評価額の0.5%~1%程度(最低報酬額30万円~100万円程度に設定されていることが多い)
公正証書作成費用公証役場に支払う、契約書を公正証書にするための手数料信託財産額に応じて数万円~十数万円程度
信託登記費用(不動産がある場合)登録免許税(実費)と、司法書士への登記代行報酬登録免許税(土地:固定資産税評価額×0.3%、建物:同×0.4% ※軽減措置あり)+司法書士報酬(10万円前後)
信託口口座開設費用金融機関に支払う口座開設の手数料5万円~10万円程度(金融機関によって異なる。無料の場合も)

初期費用を抑えたいがために、契約書を「公正証書」にせず「私文書(自作)」で済ませようと考える方もいらっしゃいます。しかし、私文書の契約書では、多くの金融機関が「信託口口座」の開設に応じてくれません。

結果として、前述した「使い込み」や「差押え」という、信託財産全てを失う壊滅的なリスクに直結します。初期費用の数万円を節約した結果、数千万円の財産を危険に晒すことは、まさに本末転倒と言わざるを得ません。

司法書士や税理士、誰に相談すべきか

家族信託のトラブル事例の多くは、その根源をたどると、実は「専門家選びの失敗」に起因しています。

家族信託は、民法(相続)、信託法、税法(所得税、贈与税、相続税)、不動産登記法など、広範な法律知識を必要とする、非常に専門性の高い分野です。しかし、この制度は比較的新しいため、残念ながら、全ての司法書士や弁護士、税理士が家族信託に精通しているわけではありません。

経験の浅い専門家や、関連法(特に複雑な信託税制)の知識が不足している専門家に依頼してしまうと、本記事で解説したような「みなし贈与税」や「1年ルール」といった致命的な落とし穴を内包した、欠陥のある信託契約書を作成されてしまうリスクがあるのです。

最適な相談先は「専門家チーム」です

家族信託の成功には、「法務(契約)」「登記(不動産)」「税務(税金)」の3分野の専門知見が不可欠です。

  • 司法書士:信託契約書の作成、および不動産が含まれる場合の「信託登記」のプロフェッショナル。相続や後見業務にも精通しているため、実務上の相談先として最も一般的です。
  • 弁護士:信託契約書の作成も可能ですが、特に、既にご家族間でもめている場合や、将来の訴訟(遺留分請求など)に発展するリスクが非常に高い場合の紛争予防・対応に適しています。
  • 税理士:信託の設計自体(契約書作成や登記)は行えませんが、第1部で解説したような複雑な税務リスクの回避には、税理士の関与が不可欠です。

したがって、本当に信頼できる相談先とは、「家族信託の実績が豊富で、かつ、税務に精通した税理士と日常的に連携している司法書士」や、その逆のパターン(税理士が窓口で司法書士と連携)と言えます。

信託監督人で受託者の不正を防ぐ

信託監督人で受託者の不正を防ぐ

「受託者(子)を信用しているが、万が一のために不正を防ぐ仕組みが欲しい」「他の兄弟に納得してもらうための監視役が欲しい」という場合、家族信託の契約書に「信託監督人」「受益者代理人」を定める方法があります。

これらは、受託者の財産管理を監視・チェックする「監視役」です。両者は似ていますが、重要な違いがあります。

機能信託監督人受益者代理人
立場公平・中立(全ての受益者のため)特定受益者の味方(代理人)
主な役割受託者の監視・監督受益者の権利行使(監督・報告請求など)
必要なケース受益者が複数いる場合、関係が複雑な場合受益者が将来認知症などで判断能力が低下する恐れがある場合

この二つの制度のうち、特に「受益者代理人」の設置は、認知症対策としての家族信託において極めて重要な意味を持ちます。

なぜなら、信託開始時、受益者である親御さんは元気であり、自分で受託者(子)を監督することができます。しかし、親御さんが認知症などで判断能力を失うと、受託者を監督する人が誰もいなくなってしまいます。

この瞬間、受託者は「監視の目がない」状態となり、前述の「使い込み」が起きやすい危険な環境が生まれるのです。

あらかじめ契約で、親御さんが認知症になった場合に備えて、他の兄弟や信頼できる専門家(司法書士や弁護士)を「受益者代理人」として指定しておけば、その代理人が親御さんに代わって受託者を厳しく監視・牽制し、財産の保全を図ることができます。

専門家に監督人を依頼する場合、月額1万円~数万円程度の報酬(ランニングコスト)が発生することが一般的ですが、これは数千万円、場合によっては億単位の信託財産を「使い込み」のリスクから守るための「必要不可欠な保険料」として、信託の設計に組み込んでおくことを強くお勧めします。

家族信託トラブル事例は「おやとこ」で解決

ここまで、家族信託の様々なトラブル事例と、その回避策について、かなり詳しく解説してきました。金銭トラブル、親族間の対立、受託者の不正、契約の不備…これらのリスクは、どれも「知らなかった」では済まされない、ご家族の将来に直結する重大な問題です。

しかし、何度も言うように、これらの問題はすべて、「設計段階での正しい知識」「信頼できる専門家のサポート」、そして何より「家族間での事前の十分な話し合い」があれば、そのほとんどを防ぐことが可能です。

特に、認知症による不動産売却や資産凍結対策は、待ったなしの課題です。「まだ大丈夫」「ウチは仲が良いから平気」と思っているうちに、親御さんの判断能力が低下し、家族信託という最も有効な選択肢そのものが取れなくなる…そんなケースを、私は専門家として本当に多く見てきました。

「ウチの場合はどうなんだろう?」「この財産状況で信託を組むと、税金は?」

「兄弟にどう切り出したらいいか分からない…」

もしあなたが、ご実家の不動産相続や親御さんの認知症対策で少しでも不安をお持ちなら、ぜひ私たち「おやとこ」にご相談ください。私たちは、家族信託を含む相続・不動産の専門家として、あなたの家族に寄り添い、何が最適なのかを一緒に考え、具体的な解決策をご提案します。

この記事が、あなたが抱える不安を解消し、大切なご家族を守るための「最初の一歩」を踏み出すきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。

最終的な判断は、ご家族でしっかり話し合い、必要であれば司法書士、弁護士、税理士といった専門家にご相談の上、慎重に進めることをお勧めします。

家族信託の設計は、100家族あれば100通りです。

コンサルタント @KAZU

家族信託は「万能薬」ではありませんが、「正しく設計すれば」認知症による資産凍結や家族の想いを次世代につなぐための、最も強力な法的ツールの一つです。トラブル事例を知ることは、決して怖がることではなく、あなたの家族に最適な信託を設計するための「最高の道しるべ」になりますよ。

あなたの家族に最適なプランを見つけるため、まずは専門家にご相談ください。

まずは無料相談で我が家の診断

家族信託トラブル回避!今日からできるアクションプラン

  1. 「家族会議」を開く:まずはご家族(ご兄弟)全員で、親御さんの財産管理や介護についてどう考えているか、現状の不安を(感情的にならずに)共有してみましょう。「誰がやるか」ではなく「どうなったら皆が安心か」をテーマに話すのがコツです。
  2. 財産の棚卸しをする:親御さんが元気なうちに、ご実家の不動産(名義は誰か?固定資産税評価額は?)、預貯金(どの銀行に?)、有価証券、保険などをリストアップし、現状を正確に把握しましょう。
  3. 専門家に「無料相談」してみる:「おやとこ」のような、家族信託や相続に強い専門機関の無料相談を利用し、「我が家の場合はどうなのか」という具体的なアドバイスや、セカンドオピニオンを聞いてみましょう。

トラブルを恐れて何もしないことが、実は最大のリスクです。正しい知識を武器に、大切なご家族を守るための一歩を、今日から踏出しましょう!

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この記事を書いた専門家

保有資格: 相続診断士 / 宅地建物取引士 / AFP(日本FP協会認定)など20種以上

不動産・金融業界で15年以上の実務経験、1,500件以上の相談実績を持つ相続・終活・不動産相続のプロフェッショナル。法律・税務・介護の専門家と連携し、ご家族に寄り添った円満な終活・相続を実現します。

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