認知症 不動産 売却 方法|資産凍結を防ぐために今すぐ知るべき対策とは?

認知症 不動産 売却 方法|資産凍結を防ぐために今すぐ知るべき対策とは?
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終活だよドットコムの運営者、終活・相続・不動産の専門家のカズです。

「親が認知症かもしれない。実家の名義変更や売却はどうするんだろう…」と不安になって、「認知症の不動産売却方法」と検索されたのではないでしょうか。ご安心ください。

この記事では、なぜ認知症になると実家が売れないのか、その法的な理由から、高齢親の資産売却に関する具体的な解決策まで、専門家の視点で徹底的に解説していきます。

実は、親が認知症と診断されて判断能力がないと法的に判断されると、たとえ家族であっても、その不動産は「資産凍結」状態になってしまうんです。そうなると、売却も賃貸もできず、固定資産税だけがかかり続ける「負債」になりかねません。

この記事では、そうなる前の対策、なってしまった後の対策、そして私カズが推奨する「家族信託」という選択肢まで、あなたの状況に合わせた「認知症の不動産売却方法」を詳しくご紹介します。

認知症による資産凍結は、親御さんのためにも避けたい大問題。 専門家による早めの対策が、あなたと家族を守ります。

認知症対策の準備、まずはここから /

この記事のポイント
  • なぜ認知症になると不動産が売却できなくなるのか
  • 認知症発症後に唯一使える「成年後見制度」の詳細
  • 発症前に備える「家族信託」のメリットと流れ
  • あなたの状況に合った最適な対策の選び方
コンサルタント @KAZU

この「認知症による資産凍結」は、私がご相談を受ける中で最も多いお悩みの一つです。「まだ元気だから大丈夫」と思っていても、判断能力が失われるのは本当にあっという間なんです。法的な手続きが何もできなくなる前に、正しい知識を持つことが家族を守る第一歩になりますよ。

目次

認知症の不動産売却、その方法と大きな壁

認知症の不動産売却、その方法と大きな壁

「親が元気なうちに話しておけば…」と後悔する前に、まずは知っておくべき「法的な壁」について解説します。なぜ売却できなくなるのか、その根本的な理由を見ていきましょう。

認知症で実家が売れない?名義の問題

ご実家の売却が難しくなる最大の理由は、不動産の名義人であるご本人の「意思能力」が法的に認められなくなる点にあります。

不動産売却は「売ります」「買います」という双方の合意(契約)によって成立する「法律行為」です。

この契約が有効であるためには、ご本人が「売却する」ことの意味(例:3,000万円で売る)、売却によって「自分の家の所有権を失う」という法的な結果、そしてその代金を受け取るという経済的な意味を、きちんと理解できていることが絶対条件です。

認知症が進行し、この意思能力が不十分だと法的に判断された場合、たとえ売買契約書にご本人がサインをし、実印を押したとしても、その契約は法律上「無効」となってしまいます。

医学的診断と法的な「意思能力」は別モノ

ここで重要なのは、「認知症の診断書があるから即アウト」というわけでも、「診断書がないからセーフ」というわけでもない、という点です。医学的な診断と、法律上の「意思能力の有無」は、似ているようで異なる概念なんですね。

あくまでも「契約の瞬間に、法的な判断能力があったか」という客観的な事実が問われます。不動産仲介会社や、最後の登記手続きを担当する司法書士は、この「契約無効」のリスクを最も恐れています。

もし契約が無効になれば、買主様は支払った代金の返還を求めると同時に、すでに移転した所有権登記を元に戻さなければなりません。

これは買主様にとって、とんでもない損害とリスクですよね。ですから、司法書士がご本人と面談(本人確認・意思確認)した際に、少しでも「あれ?ご本人が売却の事実を理解されていないな?」と疑いを持てば、専門家としての責任上、登記の手続きをストップさせるのです。

高齢親の名義変更、売却できない壁

高齢親の名義変更、売却できない壁

「それなら、売却が難しくなる前に、親から子どもへ名義変更(生前贈与)してしまえばいいのでは?」と考える方もいらっしゃいます。お気持ちはとてもよく分かりますが、残念ながらこれも「意思能力」の壁に阻まれてしまいます。

なぜなら、不動産を「あげる(贈与する)」という行為も、「あげます」「もらいます」という双方の合意が必要な、売買と同じ立派な「契約」行為だからです。

ご本人の意思能力が失われていれば、その贈与契約も法的に無効とされる可能性が極めて高いのです。「うちの親は『お前にやる』と言っていた」というだけでは、法的な証拠にはなりません。

相続トラブル(骨肉の争い)の火種に

もし、ご本人の意思能力が曖昧なグレーゾーンの状態で、特定のお子さん(例えば、同居して介護をしている長男)へ無理に名義変更(贈与)したとしましょう。その時点では問題にならなくても、将来、親御さんが亡くなって相続(遺産分割)が始まった瞬間に、大きなトラブルの火種となります。

他のご兄弟(相続人)から「あの時の贈与は、父さん(母さん)に判断能力がない状態で行われた『無効』なものだ!」「あの家は相続財産として分け直すべきだ!」と訴訟(遺産分割調停など)を起こされるケースが、実際に後を絶ちません。

善意でやったつもりの名義変更が、結果としてご家族の間に深刻な亀裂(骨肉の争い)を生んでしまう可能性があるのです。

親の資産売却、どうする?資産凍結リスク

ご本人の意思能力がなくなり、かつ、後ほどご説明する「成年後見」や「家族信託」といった法的な対策を何も講じていない場合、そのご実家は法的に「資産凍結」された状態に陥ります。

文字通り、カチンコチンに凍ってしまい、誰も手が出せない状態です。「親の資産売却、どうする?」とご家族が悩んでいる間にも、状況は刻一刻と悪化していく可能性があります。

資産凍結の恐ろしい現実

資産が凍結されると、ご家族が「良かれ」と思って計画していたことが、すべて実行不可能になります。

  • 売却できない(介護費用の捻出不可): 親御さんの介護費用や、老人ホーム・介護施設への入居一時金に充てようと計画していても、ご実家を現金化することが一切できません。預貯金が底をついてしまった場合、ご家族が介護費用を肩代わりし続けることになります。
  • 賃貸もできない(収入源の喪失): 「売るのは忍びないから、賃貸に出して家賃収入を介護費用に…」というプランも不可能です。賃貸借契約もまた、売買と同様に所有者本人の有効な意思表示なしには締結できません。
  • 「負債化」する空き家: 誰も手を出せないまま「空き家」として放置されると、ご実家は「財産」から「負債」へと変わっていきます。
    1. 資産価値の急落: 人が住まない家は、湿気や換気不足により急速に老朽化し、資産価値が毎年どんどん下落していきます。
    2. 税負担の継続: 空き家であっても、固定資産税や都市計画税は毎年容赦なく課税され続けます。誰も使えない不動産のために、税金だけが出ていく状態です。
    3. 特定空き家リスク: 最も恐ろしいのが、放置によって倒壊の危険や衛生上の問題があると自治体に判断され「特定空き家」に指定されるケースです。この場合、固定資産税の住宅用地特例が解除され、税額が最大で6倍に跳ね上がる可能性があります。(出典:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法」
    4. その他のリスク: その他、放火、不法投棄、害獣の住処になる、台風や地震で倒壊して近隣へ損害賠償責任を負うなど、数えきれないリスクを抱えることになります。

このように、守るべき「財産」だったはずのご実家が、何もできなまま放置することで「負債」に変わってしまうのです。こうした「空き家問題」は、今や日本全体の深刻な社会問題ともなっています。

委任状や実印では売却できない厳しさ

委任状や実印では売却できない厳しさ

「元気なうちに、親に『不動産の売却や管理の一切を任せる』という委任状を書いてもらったから大丈夫!」 これは、私カズがご相談を受ける中でも、本当に、本当によくある誤解の一つです。

お気持ちは分かりますが、残念ながら、その委任状(法律用語でいうところの「代理権」)は、親御さんの認知症が進行した時点では役に立たない可能性が極めて高いです。

なぜなら、民法の規定により、委任契約は、委任者(この場合は親御さん)が意思能力を失った時点で、その効力を失うのが原則だからです(※正確には「後見開始の審判」を受けた時点で失効)。

つまり、親御さんの認知症が進行して「意思能力がない」と法的に判断された後に、その委任状を使ってお子さんが売買契約を結ぼうとしても、それは法的に「無権代理行為(むけんだいりこうい)」、つまり「何の権限もない人が勝手にやった契約」となり、契約は無効です。

実印や権利証を持ち出しても…

「それなら、親の実印や印鑑証明書、権利証(登記識別情報)をこっそり持ち出してくれば…」と考えるのは絶対におやめください。

前述の通り、売買の最終的な登記手続き(名義変更)を行う司法書士は、必ずご本人様と面談し、「本当にご自身の意思で売却されるのですね?」という最終確認を行います。そこで意思能力が確認できなければ、たとえ書類がすべて揃っていても、司法書士は絶対に登記を受け付けません。

法律上、たとえ親子であっても、他人の財産を勝手に処分することは許されないのです。もし、ご本人の意思能力がないことを知りながら強引に手続きを進めようとした場合、お子さん自身が法的な責任(損害賠償など)を問われる可能性すらあります。

認知症発症後の唯一の手段「成年後見」

では、すでにご本人の意思能力が失われてしまい、委任状も使えず、八方ふさがりになってしまった場合、打つ手は全くないのでしょうか?

いいえ、ご安心ください。法的に不動産を売却するための手段が、一つだけ残されています。それが「成年後見制度(法定後見)」の利用です。

これは、ご本人の財産を守り、法律行為を支援するために、ご家族などが家庭裁判所に申し立てを行い、ご本人の判断能力を補うための法的なパートナー「成年後見人(せいねんこうけんにん)」を選任してもらう国の制度です。

成年後見人が選任されれば、その後見人がご本人に代わって「法定代理人」として売主となり、法的に有効な売買契約を締結することができます。これが、発症後に残された唯一の正規ルートとなります。

状態に応じた3つの類型

成年後見制度(法定後見)には、ご本人の判断能力の程度に応じて、家庭裁判所が決定する3つのレベル(類型)があります。申し立てるご家族が「うちは『保佐』でお願いします」というように自由に選ぶことはできず、最終的には医師の診断書や鑑定に基づき裁判所が決定します。

類型判断能力の目安支援する人不動産売却のハードル
後見(こうけん)判断能力が「全くない」状態成年後見人後見人が代理で行う。ただし、居住用不動産の場合は家庭裁判所の「処分許可」が別途必要。
保佐(ほさ)判断能力が「著しく不十分」な状態保佐人非常に高い。①「保佐人選任」+②「不動産売却の代理権付与の申立て」+③(居住用の場合)「処分許可」と、裁判所の許可が二重・三重に必要
補助(ほじょ)判断能力が「不十分」な状態補助人保佐と同様に、裁判所の許可が二重・三重に必要。

このように、「後見」以外の「保佐」や「補助」が選択された場合、不動産を売却するまでの手続きはさらに複雑になり、時間も手間もかかる、ということを覚えておく必要があります。

成年後見制度のデメリットと費用

成年後見制度のデメリットと費用

「それなら成年後見制度を使えば安心だ!」と思われるかもしれませんが、この制度は、あくまで「ご本人の財産をカッチリ守る」ための制度であり、「ご家族が自由に売却するための代行サービス」ではないため、多くのデメリットとコストが伴います。

利用する前に、必ず以下の点を理解しておいてください。私カズがご相談を受ける中で、後から「こんなはずじゃなかった…」と仰る方が最も多いポイントでもあります。

成年後見制度の主なデメリット

1. 家族が後見人になれるとは限らない(むしろ稀) 申し立ての際に家族を「後見人候補者」として希望を出すことはできます。しかし、最高裁判所のデータ(令和5年 成年後見関係事件の概況)によれば、親族以外の第三者(弁護士、司法書士、社会福祉士など)が後見人に選任されるケースは全体の約8割にも上ります。

特に、売却という大きな財産処分が目的の場合や、親族間に少しでも意見の対立(「売りたい兄」と「売りたくない弟」など)があると、裁判所は中立公平な専門職を「第三者後見人」として選任する可能性が極めて高くなります。

2. 家族が望む柔軟な財産管理は一切できない 専門職後見人の第一の任務は、ご本人の「財産保護」です。ご本人の財産が不当に減らないよう、厳格に管理することが求められます。

したがって、ご家族が望むような「相続税対策のための生前贈与」や「アパート経営のためのリフォームローン契約」、「積極的な資産運用(株式投資など)」は、ご本人の利益にならないと判断されれば、一切認められません。

3. 居住用不動産の売却には「裁判所の許可」が別途必要 後見人が選任されたからといって、すぐに売却できるわけではありません。

ご本人が現在住んでいる家はもちろん、過去に住んでいた家(今は施設に入所している場合など)であっても、その「居住用不動産」を売却するには、後見人選任後、再度、家庭裁判所に「居住用不動産処分許可の申立て」を行い、許可を得ることが法的に必須です。

裁判所は、「本当に今、売る必要があるのか(介護費用が預貯金で足りているのでは?)」「売却条件(価格)は妥当か(不当に安くないか?)」などを複数の不動産査定書を基に厳しく審査するため、許可が下りるまでにも時間がかかります。(※投資用アパートや更地など、居住用以外ならこの許可は不要です)

4. 生涯続くランニングコスト(後見人報酬) これが最大のデメリットかもしれません。専門職が後見人になると、ご本人の財産の中から、ご本人が亡くなるまで毎月2万円〜6万円程度の「後見人報酬」(管理財産額による)を支払い続ける必要があります。

不動産売却が1年後に無事完了したとしても、成年後見制度は「ご本人の判断能力が回復する」か「ご本人が亡くなる」まで、原則として終了することはできません。「売却のためだけ」に利用するつもりが、生涯にわたるコストと財産管理の制限が続くことになるのです。

申立てにかかる費用と期間

制度利用には、以下のような費用と期間がかかります。

  • 申立て費用(実費): 収入印紙や郵便切手代、戸籍謄本や住民票、登記簿謄本などの取得費用、そして最も重要な「医師の診断書(成年後見用)」の作成料などで、合計1〜2万円程度です。
  • 鑑定費用: 裁判所がご本人の精神状態をより詳しく医学的に調べる必要があると判断した場合、別途5万円〜10万円程度の「鑑定費用」がかかることがあります。(※発生率はそれほど高くありません)
  • 専門家への依頼費用: この複雑な申立て書類の作成自体を、司法書士や弁護士に依頼する場合、その報酬として別途10万円〜20万円程度が目安です。
  • 売却までの期間: 申立てから後見人が選任されるまで、スムーズにいっても約3〜4ヶ月。そこから売却活動を開始し、買主様を見つけ、裁判所の「居住用不動産処分許可」を得て…と進めるため、申立てを開始してから売却代金を受領するまでは、最もスムーズに進んでも6ヶ月〜1年程度は見込んでおく必要があります。「来月の施設入居費が足りない!」というような、差し迫った資金ニーズには対応できないのです。

最適な認知症の不動産売却方法「家族信託」

最適な認知症の不動産売却方法「家族信託」

成年後見制度のデメリット、特に「裁判所の厳格な管理」と「生涯続く専門家報酬」という現実を知ると、「うーん、それはちょっと避けたいな…」と不安になってしまいますよね。

しかし、ご安心ください。まだご本人の意思能力がはっきりしている「発症前」や、物忘れレベルの「認知症のごく初期」であれば、もっと柔軟で、ご家族の想いをダイレクトに実現できる素晴らしい対策があります。それが「家族信託」です。

コンサルタント @KAZU

私が多くのご家族に「家族信託」をお勧めする理由は、これが「家族による家族のための財産管理」を実現できる数少ない方法だからです。成年後見制度が、いわば「法律という既製品のスーツ」を(裁判所に)着せてもらうイメージなら、家族信託は「ご家族の希望に合わせて、採寸から行うオーダーメイドのスーツ」を作るイメージ。この違いは本当に大きいですよ。

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家族信託が注目される理由とは?

家族信託とは、ご本人(=委託者)が、まだ元気で判断能力が十分にあるうちに、信頼できるご家族(例:お子さん=受託者)との間で「信託契約」を結び、「ご実家の売却や管理」「預貯金の管理」といった財産管理の権限を、契約で定めた目的に従って法的に託す(信託する)制度です。

この契約の最大のメリットは、契約を結んだ後にご本人(委託者)が認知症を発症し、意思能力を失ってしまったとしても、財産を託された受託者(お子さん)は、信託契約で与えられた権限に基づき、引き続き財産管理(売却や賃貸)を合法的に続けられる点にあります。

成年後見制度と異なり、家庭裁判所への定期的な報告や、売却のたびに許可を得る必要は一切ありません。まさに、家族の力で「資産凍結」を未然に防ぐための、強力な法的ツールなのです。

家族信託のメリットと流れ

家族信託のメリットと流れ

家族信託には、成年後見制度にはない、ご家族にとって非常に魅力的なメリットがたくさんあります。

家族信託の主なメリット

  • 裁判所の関与が一切不要(=柔軟・迅速) 財産管理のために裁判所に逐一報告書を出したり、不動産売却の許可を得たりする必要が一切ありません。「介護費用が不足してきたから、来月までに売却活動を始めよう」といったご家族の判断で、最適なタイミングで柔軟かつ迅速に売却活動を進められます。
  • 継続的なコストがほぼゼロ 受託者(財産を託される人)を家族(お子さんなど)にする場合、報酬を「無償(ボランティア)」と設定するのが一般的です。成年後見のような専門家への継続的な報酬(月2〜6万円)が発生しないため、長期的に見ればトータルの経済的メリットは非常に大きくなります。
  • 家族の想いを契約に込められる(オーダーメイド) 「売却代金は、必ず親の介護費用や施設入居費、医療費に使う」「もし売却しなかった場合は、この家に住んでいる長男に相続させる(※)」など、ご家族の状況に合わせて、財産の管理方法や、親御さんが亡くなった後の財産の承継先まで、契約書で自由に(ただし法的に有効な範囲で)設計することができます。 (※)このような、次の代、さらにその次の代への資産承継を指定できるのも信託の大きな特徴で「受益者連続型信託」などと呼ばれます。

家族信託による不動産売却のステップ

実際に家族信託を組んで、将来の売却に備える場合、以下のような流れで進めるのが一般的です。

  1. ステップ1: 信託契約の設計と締結(公正証書) ご本人(親)の意思能力が十分にあることが絶対条件です。「なぜ信託するのか(目的)」「どの財産を(実家と預金3,000万円など)」「誰に(長男に)」「何のために(親の生活・介護費用のため)」といった契約の根幹を、専門家(司法書士など)と綿密に打ち合わせながら設計します。この契約は、後日のトラブル防止と、契約時のご本人の意思能力を公証人に証明してもらうため、必ず「公正証書」で作成するのが一般的です。
  2. ステップ2: 不動産の「信託登記」と「信託口口座」の開設 契約を結んだだけでは、買主などの第三者に「自分が受託者だ」と主張できません。法務局で、不動産の名義を、親(委託者)から「受託者(子)」へ変更する「所有権移転登記」と、「信託登記(信託契約の内容を公示する登記)」を同時に申請します。この時点で、登記簿上の所有者は法的に「受託者(子)」となります。 また、信託された金銭を管理するため、受託者(子)個人の財産とは明確に分けて管理する「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」を金融機関で開設するのが一般的です。
  3. ステップ3: 受託者(子)による売却活動と契約 信託登記が完了すれば、登記簿上の所有者は「受託者(子)」です。そのため、将来、ご本人(親)の意思能力が低下したとしても、それとは一切関係なく、受託者(子)が単独で「売主」として買主と売買契約を締結し、売却を進めることができます。売却代金は、前述の「信託口口座」に入金され、引き続き親御さんのために管理されます。

家族信託にかかる費用と注意点

非常に柔軟でメリットの多い家族信託ですが、もちろん万能ではありません。「魔法の杖」ではなく、れっきとした法制度ですので、初期費用と、知っておくべき重大な注意点(デメリット)があります。

初期費用

家族信託は、ご家族の状況に合わせて契約内容をゼロから設計する完全オーダーメイドの仕組みです。そのため、主な費用として、契約書の設計やコンサルティング費用、登記手続きの代行費用として、司法書士や弁護士などの専門家報酬がかかります。

信託する財産額や内容の複雑さにもよりますが、ご実家(不動産)を含む一般的な信託契約の場合、50万円〜120万円程度が相場とされています。

その他、公証役場に支払う「公正証書作成費用」(信託する財産額に応じて数万円〜十数万円)や、法務局に納める「登録免許税」(信託登記の費用。固定資産税評価額による)が実費としてかかります。

「うわっ、初期費用高いな!」と思われたかもしれませんね。ですが、ここで比較対象として思い出してほしいのが、成年後見の専門家報酬です。仮に月3万円の報酬が10年間続くと合計360万円、20年なら720万円にもなります。長期的なランニングコストが発生しない点を考慮すると、トータルコストでは家族信託が圧倒的に有利になるケースも多いのです。

家族信託の注意点(デメリット)

費用以上に重要な、家族信託の弱点やデメリットについて解説します。これを知らずに進めると、後で「こんなはずじゃ…」となりかねません。

1. 身上監護権(しんじょうかんごけん)がない 家族信託は、あくまで「財産管理」に特化した制度です。そのため、受託者(子)には、親御さんの介護施設の入居契約や、病院での医療契約・手術の同意などを代理する「身上監護権」が法的にありません。「実家を売って施設入居費は準備できたけど、肝心の入居契約が親の認知症で代理できない!」という、なんとも皮肉な事態が起こり得るのです。 (※対策:この弱点は、家族信託と別途「任意後見契約」をセットで結んでおくことで完璧にカバーできます。財産管理は「家族信託」、身上監護は「任意後見」と、役割分担させるのが最強の組み合わせとされています。詳しくは不動産家族信託のメリット・デメリットもご覧ください。)

2. 【最重要】税務上の大きな落とし穴(3,000万円控除) これが家族信託の最大の注意点です。家族信託を利用してご実家(信託財産)を売却した場合、原則として「マイホーム(居住用財産)を売却した時の3,000万円特別控除」が使えません。

この非常に強力な税務特例は、「所有者」が「自ら住んでいた家」を売ることが要件です。しかし家族信託では、登記簿上の「所有者」は「受託者(子)」、実際に「住んでいた人」は「受益者(親)」となり、法的に分離してしまいます。その結果、売主である受託者(子)も、受益者(親)も、どちらも3,000万円控除の要件を満たせない、というのが現在の税務上の一般的な見解なのです。

もし、ご実家が昔(例えばバブル期)に安く買った土地で、売却益(買った時より高く売れた利益)が3,000万円以上出るようなケースでは、成年後見制度で売れば税金0円だったのに、家族信託で売ったために数百万円(利益×約20%)もの譲渡所得税が発生する…という可能性があります。

(※対策:ただし、そもそも売却益が出ない(買った時の価格より安く売る)場合や、売却益が少額な場合は、このデメリットは関係ありません。ご実家の購入時の契約書などを確認し、税理士に試算してもらうことが不可欠です。)

3. 発症後は利用できない(=タイミングが命) 何度も強調しますが、家族信託は「契約」です。ご本人の明確な意思能力が契約時に必須であり、認知症がかなり進行して「契約内容を理解できない」状態になってしまった後では、残念ながらこの選択肢は取れません。「まだ元気だから」ではなく「元気なうちにしかできない」対策なのです。

これらの費用やデメリット、特に税務上の問題は、ご家族の財産状況やご実家の購入価格、ご本人の健康状態によって、取るべきベストな選択が大きく異なります。安易にご家族だけで判断せず、必ず、相続税や譲渡所得税に詳しい税理士と、家族信託の実績が豊富な司法書士の両方に相談することをお勧めします。

認知症の不動産売却に関するFAQ

認知症の不動産売却に関するFAQ

ここで、認知症の不動産売却に関して、私カズがよく受けるご質問にお答えします。

認知症「軽度」や「MCI(軽度認知障害)」と診断されました。まだ売却できますか?

契約時に意思能力(売却の意味や結果を理解できるか)が法的に認められれば可能です。ただし、その判断は非常に難しく、後日のトラブル防止のため、司法書士がご本人と面談し、場合によっては医師の診断書(意思能力に関する所見)を参考にするなど、客観的な確認が重要になります。

家族信託と「任意後見制度」はどう違いますか?

家族信託は「財産管理」に特化し、裁判所の関与が一切ない柔軟な制度です。一方、任意後見制度は「財産管理+身上監護(介護契約など)」の両方ができ、元気なうちに自分で後見人を指名できる契約ですが、発効後は家庭裁判所が選任する「任意後見監督人」の監督下に置かれ、監督人への継続報酬が発生します。

実家が親と子の「共有名義」です。親が認知症になったらどうなりますか?

不動産全体を売却するには、共有者全員(この場合、親と子)の売却意思が必要です。お子さんの意思があっても、親御さんが認知症で意思能力がない場合、その親御さんについては「成年後見人」を選任しなければ、不動産全体を売却することはできません。

家族信託の3,000万円控除が使えない問題に、対策はないですか?

残念ながら、信託登記をした後に売却する場合、この控除を適用するのは極めて難しいのが現状です。ただし、そもそも売却益が出ない(買った時の価格より安く売る)場合や、控除がなくても家族信託のメリット(柔軟性やコスト)が上回る場合もあります。税理士への試算相談が必須です。

家族信託なら「おやとこ」へ相談

ここまで読んでいただいて、「成年後見は避けたいけど、家族信託も税金(3,000万円控除)や費用、身上監護の問題が複雑で、自分たちで進めるのは難しそう…」と感じられたかもしれません。

その通りなんです。家族信託は、「どの専門家に頼むか」で、その効果や安全性、そして将来の税負担まで、結果が全く変わってきてしまう非常に専門的な分野です。不動産屋さんや銀行の窓口で勧められるがままに契約してしまい、後から税務上の問題に気づく…なんてケースも。

私たち「終活だよドットコム」が自信を持って提携しているサービス「おやとこ」は、まさにこうした認知症による資産凍結問題、特に家族信託に特化した司法書士・税理士の専門家チームです。

「おやとこ」に相談するメリット

  • 家族信託に精通した司法書士が、ご家族の想いや財産状況(ご実家の購入経緯なども含め)を丁寧にヒアリングし、オーダーメイドで最適な信託契約を設計します。
  • デメリットとなり得る税務上の問題(3,000万円控除など)も決して隠さず、ご家族の状況(売却益が出るか否か)を提携税理士と連携してシミュレーションし、最善の策を検討します。
  • 「そもそも家族信託が不要なケース」や、前述した「任意後見制度との併用がベストなケース」など、ご家族の利益を最優先し、本当に必要な対策だけをご提案します。

何から手をつけていいか分からない… 「うちの場合はどうなんだろう?」その不安、専門家に相談してみませんか?

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認知症の不動産売却方法まとめ

認知症の不動産売却方法まとめ

今回は、認知症の不動産売却方法について、法的な課題(意思能力と資産凍結)から、具体的な3つの対策(法定後見・任意後見・家族信託)までを、メリット・デメリットを比較しながら徹底解説しました。

どの制度も一長一短があり、「これが絶対の正解」というものはありません。ご家族の状況、財産の内容、そして何よりご本人の想いによって、ベストな選択は変わってきます。

最後に、あなたの状況に応じて「どの対策を選ぶべきか」の判断基準を、もう一度表にまとめますね。

状況別・選ぶべき対策

状況(本人の意思能力)主な選択肢メリットデメリット・注意点
発症後 (意思能力がない法定後見制度法的に売却できる唯一の方法。財産が保護される。裁判所の許可必須。専門家報酬(継続)が発生。柔軟性ゼロ。時間もかかる。
発症前 (意思能力がある家族信託家族だけで柔軟に管理・売却可。裁判所の関与不要。継続コストほぼゼロ。初期費用がかかる。3000万控除適用外リスク。身上監護権なし。
発症前 (意思能力がある任意後見制度身上監護(介護契約など)も任せられる。後見人を自分で指名可。発効後は監督人が選任され、継続報酬が発生する。(家族信託との併用が◎)

この表から明らかなように、最大の分岐点は「ご本人の意思能力がはっきりしているうち(発症前)に動けるか」、この一点に尽きます。

発症前にしか取れない対策(家族信託や任意後見)が、ご家族にとって最も負担が少なく、親御さんの想いを実現できる選択肢であることは間違いありません。

コンサルタント @KAZU

この記事を読んで、「うちはまだ大丈夫」ではなく、「うちもそろそろ真剣に考えないとマズいかも」と思っていただけたら幸いです。相続や終活は、問題が起きてからでは遅いこと、選択肢が極端に狭まってしまうことばかりなんです。

一番の対策は「家族でこの話題をタブーにせず、明るく話すこと」。そして「正しい知識を持った専門家に早めに相談すること」です。あなたの家族が将来もめないための、そして何より親御さんの財産を守るための大切な第一歩を、ぜひ今日から踏み出してくださいね。

今日からできるアクションプラン

「認知症の不動産売却方法」で将来悩まないために、今日からできることが3つあります!

  1. 親の「意向」を(雑談がてら)確認する まずは深刻にならず、雑談レベルで構いません。「この家、将来どうしたいと思ってる?」「もし介護が必要になったら、施設に入りたい?家がいい?」と、親御さんが元気なうちに、ご本人の意向を優しく聞いてみましょう。
  2. 実家の「購入時の価格」を確認する 実家が今いくらで売れそうか(査定額)も大事ですが、税金計算(3,000万円控除の要否)のためには「買った時はいくらだったのか」が分かる契約書や領収書を探しておくことが超重要です!
  3. 専門家に「現状診断(無料相談)」してもらう 「おやとこ」のような家族信託や相続の専門家に無料相談し、「うちの家族構成と財産状況(特に実家の購入額)なら、どの対策がベストか」の客観的な診断を受けてみましょう。

「いつか」ではなく「今」動くことが、未来のあなたとご家族を助ける、一番の保険になりますよ!

専門家への相談は、未来の家族を守るための第一歩です。 手遅れになる前に、今すぐ行動しましょう。

認知症対策の準備、まずはここから /

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この記事を書いた専門家

保有資格: 相続診断士 / 宅地建物取引士 / AFP(日本FP協会認定)など20種以上

不動産・金融業界で15年以上の実務経験、1,500件以上の相談実績を持つ相続・終活・不動産相続のプロフェッショナル。法律・税務・介護の専門家と連携し、ご家族に寄り添った円満な終活・相続を実現します。

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